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那覇家庭裁判所 平成11年(少)90号 決定 1999年3月19日

少年 R・S(昭和58.6.30生)

主文

この事件については、少年を保護処分に付さない。

理由

1  本件送致事実の要旨は、少年が、<1>平成10年7月24日午後1時ころ、窃盗目的で、沖縄県島尻郡○○町○○××番地の××のA方居宅に侵入し、同所において、現金約3万5000円ほか2点在中のシヨルダーバッグを窃取し、<2>同月30日午後2時ころ、同町○○×××番地の×○○駐車場において、同所に駐車中の普通乗用自動車内から、財布及び運転免許証を窃取した(以下、<1>、<2>を合わせて「本件各事件」という。)というものである。

2  少年は、平成11年2月15日那覇家庭裁判所名護支部において本件各事件により初等少年院に送致され、同月19日中津少年学院に身柄を引き渡されたものであるが、同年3月8日抗告審である福岡高等裁判所那覇支部により同決定が取り消されて差し戻され、那覇家庭裁判所に送致されたもので、当裁判所は、同日観護措置決定をした。

3  抗告審の決定要旨は、<1>少年の犯行であることを裏付ける客観的証拠はなく、この点に関する主要な証拠は、証人B及び同Cの各供述及び少年の平成10年9月8日付け司法警察員に対する供述調書(本文が5丁のもの。「本件自白調書」という。)であるが、<2>本件自白調書は、客観的事実に齟齬する点が少なからず存するうえ、その内容にも合理性がなく、犯行の動機、犯行に至る経緯等についても、迫真性が存せず、信用性に欠けるといわざるをえない、<3>証人Bの少年の犯行であることを裏付ける部分についての供述は信用性に欠けるというほかなく、<4>証人Cの供述によっても、少年が犯人であることを推認することはできない、<5>結局、本件記録による限り、少年が本件各事件を犯したことについては、合理的な疑いがあるというほかない、というものである。

4  少年は、抗告審決定後に受けた観護措置決定及び審判の際のいずれにおいても、抗告審決定前と同様に、本件各事件を犯したことを否定しており、当審において調査、審判の結果、少年が本件各事件を犯したと認めるに足りる新たな証拠が顕出されるなどの事情変更はなかった。そうすると、抗告審決定に示された上記判断は、差し戻しを受けた当裁判所を拘束するというほかない。したがって、少年が本件各事件を犯したことについては、合理的な疑いがあり、本件は犯罪の証明がないものとして、少年を保護処分に付することはできないといわなければならない。

5  もっとも少年は、平成10年4月5日に父宅に引き取られた後、差し戻し前の原審において平成11年1月19日に観護措置をとられるまで、ほとんどの間家出をしており、家出中、生活費稼ぎのためかなりの回数万引きをし、その他にも恐喝、オートバイ窃盗、自動車持ち出し、オートバイと自動車の無免許運転等の非行を反復している。こうした少年の行状を、ぐ犯事件としていわゆる報告立件したうえ、これを認定する余地は十分にある。しかし少年は、差し戻し前の原審において観護措置をとられてから2か月間少年鑑別所や少年院で生活し、少年院での集団生活への適応や作業の習熟等を通じて自信を得て、今後は父や伯父の下で林業をして生活したいという強い希望を持つに至っており、父も当審判廷において、少年を引き取って指導する旨供述している。これらに照らすと、少年の要保護性は、2か月間の司法的手続による保護的措置や少年院での矯正教育によって相当に低下したと認めることができ、現時点において新たに保護処分に付するまでの必要はないというべきであるから、結局本件をぐ犯事件として報告立件しても保護処分を付す必要がないことに帰する。

6  よって、少年法23条2項により、主文のとおり決定する。

(裁判官 田中孝一)

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